福本伸行作「天 天和通りの快男児」という漫画があります。
麻雀漫画です。
麻雀はルールもよく知りませんし、やらないですが、これまでで一番心に響いた漫画です。
全18巻で、最後の3巻は麻雀の話ではなく、人間ドラマの話です。
この3巻が秀逸です(特に18巻)。
麻雀の天才、赤木という人物が、アルツハイマー病にかかり、自殺を選択しようとし、それを仲間が一人一人思いとどまるよう説得します。
18巻でひろゆきという青年が赤木を説得する番が来ます。
ひろゆきは、赤木を説得する術を持たず、むしろひろゆきが赤木に諭されます。
ひろゆきは、漫画の中の麻雀東西戦という一大決戦後、9年間、停滞した日々を送っていました。
東西戦で赤木の天才さを前に自分の無力さを知り、麻雀を止めました。
9年ぶりに会うのですが、赤木はひろゆきの今の状態を一瞬で見抜きます。
「お前の全体から、まっすぐ生きていない淀み…濁りを感じた…」
「命ってのはすなわち…輝きなんだから」
「輝きを感じない人間は命を喜ばしてないんだな…ってすぐ分かる…」
「どうして命が喜ばないかと言ったら…これまたひどく単純な話…要するに…動いていないのだっ…」
ひろゆきは、赤木に反論します。
「赤木さんは、分からない…へこたれる人の気持ちが分からない…」
「やろうと思っても…最初から萎えてしまう…」
「心ならずも停滞してしまう…そんな人間の気持ちが分からない…」
「なぜなら…何でもできる人だから…」
ひろゆきは赤木の麻雀には手が届かないことが分かった以上、勝負を楽しむことはできないと考えていました。
「もう勝負なんて…勝負を楽しむなんて…不可能でしょ…!そんなこと…!違いますか…?」
「ただ傷つくだけじゃないですか…? そんなことしても…!」
赤木は反論します。
「傷つくことは悪くない…」
「傷つきは奇跡の薬、最初の一歩となる…」
「何かをして仮にそれが失敗に終わってもいい…世間でいうところの失敗の人生もいい…」
ひろゆきは叫びます。
「バカなっ…!どこがいいっていうんですか? そんな人生の…」
「失敗の人生っていったら…誰にも認められず…軽んじられ疎まれ嫌われる…!」
「軽蔑や貧窮…そんな人生ってことでしょ…!」
「どこがいいっていうんですか…?」
「そんなハメに陥るくらいなら…まだ今の方が…まとも…っていうか…」
ここで赤木はひろゆきの苦しみの原因を見つけます。
「それだぜ…!お前を苦しめているものの正体って…!」
「お前はその『まとも』…『正常であろう』という価値観と自分の本心…魂との板挟みに苦しんでいたんだ…!」
そして、「まとも」「正しさ」を捨てることを諭します。
赤木は天才雀士でしたが、カウンセラーとしての才も一流です。
ひろゆきの苦しみの真の原因を一瞬で見抜きました。
なぜ、この漫画が心に残ったかというと、ひろゆきを自分と重ね合わせていたからです。
当時、ボクはひろゆきと同じサラリーマンでした。
サラリーマンを辞めようと思ったきっかけはたくさんありますが、この漫画も理由の一つです。
ボクは命を輝かせていなかった。
別にサラリーマンだから輝いていないというわけではありません。
サラリーマン自体は素晴らしいことですし、命を輝かせているサラリーマンの方は大勢いらっしゃいます。
ボクは「まとも」「普通」「正常」ということにとらわれ過ぎていました。
真面目というか素直というか、バカ正直に「まとも」という枠を自ら作り、その枠内で生きていました。
だから、ずっと動けませんでした。
ボクもひろゆきと同じく9年間くらい、動いていませんでした。
命を輝かせていませんでした。
ボクの魂のセンサーは限界に達し、いろんな出来事と重なり、自分と向き合う選択を選びました。
「まとも」「正しさ」の枠から外れることができ始めたのは、自分と向き合ってから1年以上経った後です。
決して簡単ではありません。
さて、その後、ひろゆきは動き出したようです。
「天 天和通りの快男児」、ボクの魂に触れた作品です。