責任感という美徳と苦しみ
同じ職場で働いていて、責任感がある人とない人では、責任感がある人のほうが望ましいと感じることが多いと思います。
ある人が責任感がなく、本来果たすべき責任を果たしていないと、別の誰かがその責任を取らないといけなくなり、周りが迷惑するため、責任感がない人は嫌われます。
責任感があることはよいことですが、それによって苦しむ人もいます。過剰に忙しくなったり、責任感で重圧を抱えたり、不眠になったり、体調を壊したりします。
また、自分が忙しいときに無責任な人に迷惑を掛けられて、さらに忙しくなったとしたら相当腹が立つでしょう。気ままにしている人に嫉妬することもあるでしょう。
もっと無責任になれというアドバイス
責任感が強い人に対するアドバイスで「もっと無責任になれ!」という言葉がありますが、過剰な責任感を和らげることを目的としています。
ただ、この言葉はあまり効果的ではないでしょう。本人はもっと無責任になりたいのは百も承知だからです。分かっている人にその言葉を投げかけても意味はありません。
また、よくありがちな白黒思考で、行動を反転させるケースもあり、そうなると、必要な責任まで手放してしまい、余計苦しい方向に行ってしまいます。
責任を負うべきところの区別
では、私はこういうケースでどうしているかというと「責任を負うべきところと責任を負う必要がないところを区別する」ことをやっています。
自分が本来負うべき責任だけであれば、そこまで苦しくならないはずです。負う必要のない責任まで負っているから苦しくなるのです。
無責任の人の尻ぬぐい
たとえば、仕事の上司でも同僚でも誰でもいいのですが、無責任な人(Aさん)がいて、その人のせいで自分の部署に迷惑が掛かったとしましょう。
そのとき、責任感が強い人(Bさん)がありがちなのは、その尻ぬぐいをBさんがやってしまうことです。本来、その尻ぬぐいは迷惑を掛けたAさんがやるべきです。あるいは、その人を管理する管理者がやるべきです。
ところが、責任感が強い人は、被害を最小限に抑えようとして自分で対処しようとします。そのほうが被害が最小限に抑えられることが分かっているからです。得てして責任感が強い人は能力も高いです。
自作自演の苦しみ
BさんはAさんの尻ぬぐいをすることで、Aさんの仕事と責任を奪うことになります。
そうやってどんどん自分の責任を増やしていくのです。
それは大変になりますよね。
そして、AさんはBさんが自分の責任と仕事を肩代わりしてくれたので、責任を取ることはありません。
Aさんが無責任なのはこれからも続くでしょう。
「会社のために」とか「損失を最小限に抑えるために」という名目で、Bさんはどんどん他者がやっていることに介入します。
Bさんが苦しんでいるのは、無責任なAさんのせいではありません。
会社のせいでもありません。
ある出来事が起こったせいでもありません。
Bさん自身が他者の責任まで背負おうとしていることにあるのです。
Bさんの自作自演の苦しみであることをBさん自身が理解する必要があります。
それがない限り、状況がいくら改善しても同じことです。Bさんはまた他者の責任を背負い込んで苦しくなります。
責任範囲を区別する
では、Bさんはどうすればよいかというと、まずはきちんと境界線を理解することです。
つまり、自分の責任範囲と他者の責任範囲の区別ができるようになることが大事です。
そして、他者の責任範囲を自分の責任に取り込んでいることを「自覚する」ことが大切です。
その自覚があれば、境界線を引くことができます。
他者の責任を背負わず、自分の責任範囲において責任をきちんと果たすことで周りから信頼を得られます。
しかし、他者の責任を背負ってしまうと、責任範囲が増えることで、最終的に責任が果たせなくなり、信頼を失うことになりかねません。
適切な責任範囲を考えてみよう
もし、自分だけが過剰に忙しかったり、責任を抱えていると感じている人は、責任範囲の区別をしてみましょう。
「仕事で自分の責任はどれだけあるでしょうか?」
「今やっている仕事の中で本当に自分の責任でやるべきことはなんでしょうか?」
仕事でなくても構いません。家事で忙しかったとしたら、家事でやるべきことを挙げてみましょう。
「家事や育児で自分の責任はどれだけあるでしょうか?」
「夫婦での責任分担はどうなっているでしょうか?」
もし、夫や妻が負うべき責任まで「勝手に」背負っていたとしたら、それは手放しましょう。
相手に責任を負担してもらう
夫婦でどちらかが過剰に責任を負っていたとしたら、どちらかが過分に負担を強いられていることになります。
それは知らず知らずの間に不満をため込むことになります。
仕事でも家事や育児でもそうですが、もし、過分に責任を負わされていたとしたら、是正するように持っていけばよいのです。
そのとき、我慢してため込んでいたら、怒りで相手を責めることになりますので逆効果になります。
また、是正する際に、一方的なニーズを押しつけるとうまくいきません。
お互いにどう考えているのかという話し合いとすりあわせが欠かせません。
そして、改善の提案をして、お互いが「納得」することが大事です。
そうしないとどちらかが我慢して不満をため込むことになります。
自分が我慢することも、相手に我慢させることもどちらもまずいです。
自分の立場と相手の立場を両方理解した上で、前向きな選択をすることで、苦しみから抜け出すことができます。