虚構の世界で生きる理由
前回のブログで、「過去のイメージをリセットして、日々新鮮に生きよう!」ということを書きました。
なぜ、私たちは過去のイメージにしがみつくのでしょうか。
ここを解くには、人間の発達から知る必要があるでしょう。
赤ちゃんの世界観
まず、生まれたばかりの人間は、当然ながら言葉をしゃべることができません。
泣くことはできますが、言葉での意思疎通はできません。
赤ちゃんはまだ自我を持っていません。
自我とは、「私」という個の感覚であり、周りの人々や世界と分離して、個の私があるという意識です。
これって私たちにとっては当然のことで、周りにあるスマホやベッドも私だと認識していたら、異常です。
しかし、赤ちゃんの世界観は、世界と未分化な状態です。
他者の視点や世界があるということを理解できていません。
言葉を習得し、意味を理解する
生後半年くらい経つと、自我が芽生えてきます。
そこから、だんだんと言葉をしゃべるようになります。
言葉というのは、意味を持った音です。
言葉を話すことで意思疎通ができるようになりますが、意味を相互理解しています。
海外で言葉が分からない国に行けば、言葉で意思疎通ができません。
たとえば、誰かに「トイレはどこにありますか?」と聞かれたとき、私たちは「トイレ」という意味を知っています。
排泄をする場所ということを知っています。
また、「どこにあるか?」というのは、場所のありかを尋ねているということです。
さらに、その質問をするということは、「この人はトイレに行きたがっているのではないか」という推測ができます。
言葉を学習するというのは、言葉の意味を学習しています。
意味は実体験によって補完される
学習は、経験により補完されます。
実体験によって、意味の理解にどんどん厚みが出てきます。
実体験は、イメージとして記憶に残っています。
このイメージを一瞬にして参照します。
イメージが出てくると、あたかもその場面にいるかのような軽い錯覚に陥ります。
その錯覚が、肉体にも影響を与えます。
トラウマの仕組み
いわゆるトラウマは、過去の嫌な実体験を想起し、身体に不快な反応が生じるというものです。
その反応が強いほど、その後の行動に変化が生じます。
トラウマ反応を避けるために、予防的行動をし、その行動によって二次的な苦しみが生じて、それが悩みの原因となります。
ここで実際に起こっているのは、嫌なこと、不快な出来事ではありません。
淡々とした普通の日常が起こっているにもかかわらず、トラウマ反応が起きたときは、苦しい体験をしているときと同じ感覚に陥っています。
当時のイメージに苦しめられているわけです。
トラウマの解消法
では、どうすればよいかというと、イメージを変えることができれば大丈夫です。
但し、イメージだけ変えようとしてもなかなかうまくいきません。
イメージよりも、感情のほうが影響は断然強く、感情がイメージ書き換えの妨げになります。
そのため、まずは当時の感情をしっかり解放して、その後、イメージを書き換えます。
それを一連のテクニックとしたものが、「マトリックス・リインプリンティング」というセラピーです。
このセラピーはトラウマには非常に有効です。
大きな感情を伴わない出来事によるイメージ構築が大半
とはいえ、私たちはトラウマばかりを抱えているわけではありません。
むしろ、大きな感情を伴わないような出来事のほうが日常生活のウエイトが高いです。
知らず知らずのうちに記憶して、イメージを作り上げているものが大半です。
こういったイメージの世界が私たちの世界観を作り上げています。
意味やイメージの世界で生きている私たち
私たちの日常生活で、「思考=言葉」がない時間がどれだけあるでしょうか?
私たちはしゃべっていなくても、脳で言葉が飛び交っています。
思考をゼロにしておくことはできません。
空き時間はスマホを見て、言葉や映像を見ていたりします。
このときは、言葉を脳に入れています。
言葉を見ていないときも、周りの人がしゃべっている言葉が耳に入ってきます。
言葉を見ていないとき、周りの声が聞こえないときはどうでしょう?
このときは思考が頭の中をよぎっているでしょう。
「思考=言葉」が頭の中でささやいており、何か考えごとをしています。
つまり、私たちは絶えず、言葉にさらされ続けています。
言い換えれば、意味やイメージの世界に生き続けています。
日々、実体験を経験しながらも、同時にイメージを補完しながら、「体験+イメージ」の世界で生きています。
心理セラピーやマインドフルネスの重要性
イメージがネガティブで困っている人は、心理セラピーは役立ちます。
自己評価が低いというのもイメージ(セルフイメージ)ですから、心理セラピーが有効です。
さらに、マインドフルネスは、思考を見守ることで、イメージの世界を断ち切り、実体験に集中することができるようになるので、これも役立ちます。
イメージがネガティブだと、しんどい虚構の世界になる
イメージの世界で生きるとき、実体験という事実からどんどんかけ離れていきます。
ユヴァル・ノア・ハラリさんが言う「虚構の世界」で生きるようになります。
イメージがネガティブだと、この虚構の世界が、自分にとって都合の悪いものになります。
実際には何も起きていないのに苦しみます。
イメージが大半を占める虚構の世界で生きているという認識を持つ
ここで重要なことは、ネガティブイメージを変えるということもそうですが、まずは、私たちはイメージが大半を占める世界で生きているという認識をすることです。
おそらく大半の人は、虚構の世界で生きているという認識はないはずです。
実体験100%で、見ているものや感じているものはすべて事実だという認識だと思います。
ところが、今見てきたように、私たちは実体験に相当な量のイメージをくっつけながら生きているので、かなり歪んだ世界認識で生きています。
その事実をまず認めることが重要です。
虚構の世界で生きていると分かれば、見方も変わってくる
この認識があれば、生きることに対して、少し余裕やスペースができるのではないでしょうか。
他者に対しても、「ああ、この人は歪んだ世界観で見ているんだな」と距離を置いて接することができます。
すると、他者から嫌なことを言われたとしても、自分の問題として自己否定することなく、他者の世界観の問題として境界線を引くことができやすくなるでしょう。
また、イメージをポジティブなものに変えたら、気分をよくすることができるので、意識的にイメージを変えてみることでコントロールすることもできます。
意味やイメージを外した素の世界はポジティブな質を帯びている
そして、なるべくイメージを持っていない素の状態でありのままの世界を見たとき、実はそれそのものがポジティブな資質を持っていることに気づくでしょう。
世界はこんなに暖かいと感じたり、優しいと感じたり、光に満ちていたり、美しさや輝きにあふれていたり、愛を感じたりなど、何も起きていないのに感動したりします。
現実と虚構の両方を変えるアプローチが重要
心の世界に接していない人は、現実だけを変えようとします。
そもそも虚構の世界で生きているという前提ではないですから、それも当然のことです。
現実を変えようとすることで、よい状態を目指します。
しかし、それだけでは不十分で、私たちは虚構の世界の住人でもあるのですから、虚構の世界を変えていく、あるいは、虚構の世界からなるべく距離を取る練習をしていくことで、人生を変えていくことも必要です。
ここに、心理カウンセリングや心理セラピーの意義があるんじゃないかなと思います。
但し、セラピーだけでは現実の世界を変えることはできません。
セラピーを学んだ人の中には、逆にセラピーを重要視しすぎる人も出てきます。
セラピーでイメージを変えさえすれば、幸せな現実が創造できる…みたいな。
スピリチュアル系によくありがちですが、これは二極化思考です。
現実の世界を変えるには、地に足がついたアプローチが必要なのは言うまでもありません。
つまり、現実を変えるための行動と、虚構の世界を変えていくための行動の、二つの実践が必要です。
どちらもバランスよく取り入れていくのが大切だと実感しています。