人が苦しむのは苦しいことが目の前で起こって、それを体感しているからではありません。
もちろん、それもありますが、割合的にはほんのわずかです。
苦しみのほとんどが、未来の不安から起こっています。
ある経営者がいました。経営不振でこのままでは会社が倒産してしまいそうでした。その間、従業員のことや家族のこと、家を抵当にしていて家を手放さなければいけないこと、自己破産してしまうこと、失業してしまうこと、多くの人に迷惑をかけてしまうこと…たくさん悩み、苦しみました。そして、実際に倒産して、自己破産してしまうと、実は苦しかったのは今ではなく、そのことを悩んでいたときであったことに気づきました。
私たちは、「事実」ではなく、「予期」に苦しんでいるのです。
そして、この「予期」は人によって違います。ネガティブな予期が止まらない人もいます。そういう人は苦しいですね。
ネガティブな予期が悪いわけではありません。きちんと対応できるようになるからです。
最悪な事態を想定して、リスクヘッジするスキルは生きるために必要なスキルです。
リスクヘッジをせずに、過度の楽観視、ポジティブシンキングばかりだと、過大なリスクを取ることにつながって自分を破滅に導きます。
苦しんでいる人の多くが、ネガティブな予期を信じ込んでいます。予期とは「思考」です。現実ではありません。ただの空想、思い込みです。それを信じています。強迫的に信じ込んでいる人は不安神経症の症状が出ます。
では、どうすれば苦しみから抜け出せるのかというと、「思考」を信じなければいいのです。
簡単に書きましたが、実際には難しいです。トレーニングが必要です。
どういうトレーニングかというと、「思考」を観察するトレーニングです。
思考を客観視するのです。
思考に同化しているから、思考にエネルギーを注ぎ込んで、それを強化し、それに振りまわされています。
思考と分離していたら、思考のエネルギーは流れておしまいです。
だから、思考が流れてきたら、それにただ「気づく」だけにしてください。
深呼吸と併用すれば、思考に気づきやすくなるでしょう。
私たちが思考に振りまわされるのはある意味当たり前のことです。
人間の構造上必然です。
たとえば、あるレストランにたまたま入ったとします。すごくリーズナブルでおいしいことが分かりました。
人間は学習しますから、「このレストランは安くておいしい」というレッテルが貼られます。
今度はこのレッテルを基に行動します。このレッテルというのは「思考」です。
もしかしたら、その日だけ特別セールで安くて良い食材が使われたのかもしれませんし、たまたま好物の料理が出ただけなのかもしれません。しかし、レッテルにとらわれます。
「ある人が遅刻してきた」→「この人は遅刻してくる」のレッテルを貼る。
「人に容姿をばかにされた」→「私は不細工だ」のレッテルを貼る
人間が効率的な作業をするには、レッテル貼りが避けられません。いちいち再体験していれば非効率だからです。だからレッテルを貼ります。
でも、その罠はレッテルにとらわれてしまうことです。事実ではなく、思考にとらわれてしまうのです。
思考ばかりに振りまわされるのです。
レッテル化とは「言語化」といってもいいでしょう。思考は言語です。思考は言語でしか現われていないですよね。
瞑想が効果的であるゆえんは、頭の中の思考が止むからです。思考にとらわれる罠から抜け出すことができます。思考観察も同じ原理です。
思考に振りまわされて苦しんでいる人には、思考観察をオススメします。
すぐに効果は出ないですが、継続的な習慣によって、だんだん思考に振りまわされないようになってきます。
ネガティブな思考が出るのは変わらなくても、そこに執着しなくなります。ただ、流せるようになります。
そうなると結果として、思考の質も変わってくるはずです。