「思い込み」を外す方法として、リフレーミングというテクニックがあります。視点を変えて、考え方を変えさせるテクニックです。
小さいころに作られて強化されてきた思い込みはリフレーミングでは取れないですが、大人になって身に着けた常識は結構あっさり取れたりします。
常識にとらわれない人ほど豊かな発想ができるので、成果を上げやすいです。
自分の能力も発揮しやすいでしょう。
元日産GT-R開発責任者で、レース監督の水野和敏さんは常識にとらわれないで素晴らしい成果を上げた一人です。
水野さんは日産でエンジニアからレース部門に急に配属変更となりました。いきなり経験もないレース監督になったのですが、水野さんがすごいのは常識にとらわれず、本質を見抜いたこと。そして、常識にとらわれている周りからの反対を押し切った自信と行動力です。
いくら本質だけ見抜けても、自信がなければ、まわりからの猛反対の中で自分の信念をキープできないでしょうし、強い意志と行動力がなければ、自分のやろうとしていることを実行できません。
水野さんは監督就任後、出社しても何もしないで、3か月間、ただひたすらレースで勝つことはどういうことかを考えました。この時点で常識外れですね。普通、何か目に見える仕事をしていないと周りの目が気になるものです。
そして、予算もチームも今よりも大幅に小さくしました。普通逆ですよね。
なぜ、今よりも小さくしたかというと、満たされた「ヒト・モノ・カネ・時間」は組織を崩壊させると考え、効率的に仕事をするには徹底的に絞り込むべきだと考えたのです。
そして、レースで勝つ常識はこれまで「パワーのあるエンジンを搭載して、車体を軽くし、いかに速い車をつくるか」でした。考えてみれば当たり前で速い車を作るのが常識です。
でも、水野さんはレースで勝つための本質は、速い車でないことに気づきました。最高馬力で走っているのはレースのたった18%で、残りの82%はブレーキを踏んだり、カーブやコース状況に合わせて走っていました。つまり、勝つための本質はこの82%の区間にあって、アクセルを戻して半分しか踏まない状態でいかに速い車をつくるかということに気づいたのです。
また、人材の登用も常識外れでした。普通は一番有能なメカニックが車を触ります。常識ですね。
でも、水野さんはあえて一番有能なメカニックに退いてもらいました。そして、そのメカニックを指導係とし、4人育てあげてもらい、有能なメカニックを増やしたのです。
また、これまでメカニックは部品を変えたいと思っても、予算管理をしているエンジニアの承認がなければ変えられませんでした。予算管理をしているので勝手にバンバン変えられたら困るので、それは常識です。
でも、水野さんはメカニックに裁量権を与え、自分の判断で部品を変えられるようにしました。
人が能力を最大限に発揮できる本質は、自ら頭を働かせるところにあるということを知っていたのです。自主性と選択権とその結果に対する責任を与えることにより、水野さんが監督就任1年目からレースでチャンピオンを獲得し、3年後には全戦全勝するようになりました。
「常識」というものは実は頼りないものです。
これにとらわれすぎると新しい発想やブレイクスルーは生まれません。
水野さんのように本質を見抜くのは、私たちには難しいと思うかもしれませんが、そんなことはありません。
水野さんは3か月ただ勝つための本質を探すことだけに専念したのです。
私たちは3か月もそこに情熱を注ぎません。すぐに本質が見抜けるようになりたいと思うことがすでに「常識」にとらわれています。きちんと自分の頭で考え抜けば、誰でも本質を見抜けるようになると思います。