価値観を緩めるという手法
私が心理カウンセリングで行っていることの一つに「価値観を緩めて、心を楽にする」というのがあります。
全員に対してそれをやるわけではありませんが、特定の価値観によって苦しんでいるケースで、それを緩めたほうが適切だと判断した場合、お互いの同意の下で緩めていくことをやっていきます。
価値観が強すぎる弊害
たとえば、「他人に迷惑を掛けてはいけない」という価値観があります。これはとても大切な価値観ですが、強すぎると弊害があります。
他人がどう思うかを気にしすぎて、「自分がどうしたいか」が二の次になってしまい、どんどん自分の本心を見失ってしまいます。
この場合、「他人に迷惑をかけてはいけない」という価値観を緩めていき、他人がどう思うかを気にするレベルを下げていきます。
価値観はゼロ百ではない
ここで重要なことは、ゼロか百かではないということです。
価値観を変えるために、価値観を真逆にする手法がありますが、これが成功すると今度は真逆の価値観になってしまうため、私はこの手法をあまり使いません。
たとえば、我慢してきた人が「好きなことをしよう!」と自分の好きなことしかやらなくなって、かえって周囲と軋轢が生まれることがあります。
真逆の価値観にすることで、今の弊害はなくなって楽になりますが、今度は真逆の価値観から生じる弊害に悩まされるからです。
とはいえ、あまりにある価値観に固執しているときは、あえて真逆の価値観をぶつけるケースがあります
どの価値観も弊害はある
「他人に迷惑をかけてはいけない」を真逆の価値観にして「他人に迷惑をかけてもいい」わけではありません。
他人を気にせず、自分の好きなことばかりやるのは「小さな子ども」だけに許される行為で、成熟した大人がやる行為ではありません。
かといって、「他人に迷惑をかけてはダメ」なわけではありません。
人は頼り、頼られることが不可欠です。
頼り「過ぎ」や頼られ「過ぎ」がまずいだけで、頼ることや頼られることは人間関係では必要不可欠なことです。
価値観を変えるのではなく緩める
私はなるべく「価値観を変える」という言葉ではなく、「価値観を緩める」という言葉を使っています。
価値観Aから価値観Bに変えるのではなく、凝り固まった価値観Aを緩めて、マイナスに働くケースはその価値観を採用しないこともできるようにすることが大切だと思います。
柔軟性に欠けていることこそ問題
価値観に縛られている人は、柔軟性に欠けています。
価値観のルールに固執していて、ルール違反を「悪」として拒絶しています。
ルールはルールとして大切にしつつも、柔軟性を持って対応していくのが大人だと思います。
価値観の柔軟性を養う
一つの価値観を緩めることに取り組んでいくと、全体的な価値観の柔軟性が出てきます。
心の柔軟性と言い換えてもよいでしょう。
価値観の柔軟性を養うには次のようなことが役立つでしょう。
- 自分が大事にしている価値観の欠点を知っておく
- 自分が大事にしている価値観の反対の利点を知っておく
- 他者のいろいろな意見を聞いて、考え方の相違を知る
- あえて反対の価値観の意見を知る
- なぜ自分はその価値観を採用するのかを知っておく
- 「正しい」「絶対的な」価値観を過度に求めない
- 逆に「価値観を持たないこと」に固執しない
価値観の崩壊時は方向性が分からなくなる
価値観が崩壊するとき、何が正しいかが分からなくなって、エネルギーや行動力がなくなってしまうことがよくあります。
特に、自分が非常に大切にしてきた価値観であれば、一種の自己崩壊が生じます。
「アイデンティティクライシス」と呼ばれます。
これは、通常、不快な体験です。
葛藤や苦しみが生じ、目標喪失状態で、エネルギーが湧いてきません。
絶望に陥ることもあります。
しかし、これも必要なステップだと知っておくと乗り越えやすいでしょう。
葛藤や苦しみの末、新たな価値観の持ち方ができたり、柔軟な考え方が身につきます。
価値観を持つことは大切
正しい価値観を求めて、そんなものはないことに気づいたとき、今度は「価値観を持たない」ようにしようとするケースがあります。
「ニュートラルな価値観」を善とするケースです。
これも結局、価値観に他なりません。
この欠点は、価値観を持たないことでの弊害があることです。
価値観はエネルギーを生む
価値観を持たないことの弊害は、行動するエネルギーに欠けてしまうことです。
ある価値観を持っているとき、その価値観へのエネルギーが生まれます。
たとえば、「炭水化物をなるべく取らないほうがよい」という価値観があれば、炭水化物を取ることを控えようとします。
価値観は、エネルギーを生みます。あらゆる価値観から離れようとすると、行動する指針が分からなくなります。
柔軟な価値観を持ちつつ、時には価値観を強く持って、エネルギーに変えるように活用することも大切です。
心の柔軟性が高い人は、価値観をうまく活用できる人です。
そして、価値観の弊害が出てきたら、臨機応変に軌道修正できることも求められます。
心が成熟している人ほど、心の柔軟性が高いと言えるでしょう。